大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(う)266号 判決

被告人 菅又茂治 外一名

〔抄 録〕

所論は、要するに、昭和四三年七月一日以降全面的に実施されることになった統一手形用紙制度は、銀行と当座勘定取引のできないような零細業者等の営業活動の自由を著しく制約する結果をもたらし、ひいては国民の基本的人権である職業選択の自由を阻害するものであり、しかもその制約は形式上全国銀行協会連合会の決定によってはいるが、大蔵省の行政指導によるものであり、しかも何ら法律上の根拠に基づかないのであるから、かかる制度は公法的に憲法二二条一項及び三一条に違反する無効なものであり、仮にこれが、民間団体である全国銀行協会連合会による私法的な制約と解しても憲法の基本原理に違反して違憲無効であり、従って右制度の存在を前提とする被告人の本件各行為に詐欺罪の規定を適用することは許されないことになるので、これを適用した原判決は法令適用の誤りを犯すものである、というのである。

しかしながら、この点については、関係証拠に照し、原判決が「弁護人の主張に対する判断」の一項において詳細に説示しているところは、そのままこれを首肯することができる。すなわち統一手形用紙制度は、近時経済社会における手形取引の拡大に伴い、手形に対する法的知識や利用経験の充分でない者が安易にこれを利用して不渡手形が増加し、或いは手形の不渡処分制度を悪用して不当な利得を目論む者が増加する傾向に対処し、手形制度及び手形交換制度本来の機能と信頼とを回復するため種々検討された方策の一つとして一部金融機関で試用された後、手形交換制度に基く手形取引の正常化を通して信用取引全般の純化を図り、不渡手形による経済社会の混乱を防止する目的から、昭和四三年七月一日以降全国銀行協会連合会の決定によって全面的に施行されるに至ったもので、その実施については大蔵省の行政指導があったとしても経済社会が必要性と合理性を認めてあくまでも自主的に決定されたものであるところ、この制度は銀行をはじめとする金融機関が、当該金融機関を支払場所とする約束手形の支払について、これら手形を振出す委託者と当座勘定取引を開始するに当って金融機関から交付する手形用紙を使用したものに限るとする特約を結ぶことによって行われるもので、支払場所を金融機関としない手形については約定面での制約はなく、手形法上の権利関係に何らの変更を加えるものでもなく、また信用、資産状態の不健全と認められる企業者等に対し当座勘定取引契約の締結を断り、手形用紙の交付を拒むことも、手形、小切手の不渡りを未然に防止し、その信用を維持すべき社会的責任を負う金融機関としては当然容認される営業活動というべきであり、さらに、この制度の採用は全国銀行協会連合会という事業者団体の決定によるものではあるが、前示目的に照しても明らかなように、一定取引分野における競争を実質的に制限するものではなく、構成事業者である銀行等の機能又は活動を不当に制限するものでもないと認められるから、この制度により、金融機関と当座勘定取引のできない程信用、資産状態の悪い零細企業者等が統一手形用紙を利用し得ないことになるとしても、それは金融機関を支払場所とする約束手形の利用ができないという合理的な理由による一部の制約に止り、このことのみから直ちにこの制度自体が企業者の経済活動を制限し、ひいては職業選択の自由を制限するものということは到底できない。統一手形用紙制度を違憲とし、ひいて被告人の本件各行為の詐欺罪の不成立をいう所論は、前提を欠くものであるばかりでなく、既に定着した制度の運用に携わる者に対しなされた詐欺罪の成否は右制度の違憲性の有無とは別に独自に判断すべきでもあり、いずれにせよ、所論は採用の限りでない。

(千葉 永井 中野)

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